導入事例

概要

CX以上にEXを向上させるNPS®分析を展開。
ブランドを横断した調査で、「顧客満足」を「感動」に押し上げる業務改善サイクルを構築

CX以上にEXを向上させるNPS®分析を展開。
ブランドを横断した調査で、「顧客満足」を「感動」に押し上げる業務改善サイクルを構築

株式会社TSIホールディングス
コーポレート本部 経営企画部 Fashion Entertainment Studio準備室
室長 加賀谷 三平 氏 / CMK Associate 原 英里氏/村松 春菜氏/中島 理絵氏
  • #CS
  • #経営戦略
  • #アンケート
  • #サービス・流通
  • #メーカー

事例詳細

課題・背景 課題・背景

  • NPS®の導入を機にVOC活用を推進。事業に関わるスタッフたちが納得感を持って行動を起こす動機になるようなVOC分析が一層必要になると考えた。
  • NPS®開始当初は各自が自分の裁量で分析を行っていたため、分析のスキルに発展性がないこと、感覚的裁量が入ってしまうことなどが課題だった。
  • NPS®導入ブランドが増えるとともに扱うデータ量が増え、人力では限界があった。

取り組み 取り組み

  • NPS®のFAをデータソースに見える化エンジンでVOC分析。3ヶ月に一度、ブランドマネージャー等と共有会を開き、レポーティングを実施。
  • 共有会で下された分析結果をもとに、各マネージャーたちが各々の店舗でアクションを考え実施している。
  • 店舗で働くスタッフのモチベーション向上に繋がる「賞賛活動」にもVOCを活用。

成果 成果

  • 分析において感覚的裁量を排除し、客観的に顧客の声を分析できるようになったことで、より説得力のあるレポートをブランド側に提供できるようになった。
  • レポートを受けて店舗で様々なアクションが挑戦され、収益アップにも貢献。eNPS℠スコアもマイナスからプラスへ転向した。
  • お客様から届く声を直接スタッフ本人に届けることでスタッフのモチベーション向上が実現し、顧客、ブランドへの還元にも繋がっている。

真の価値を提案する新たなアパレルビジネスの創造を目指して、顧客の声に向き合う取り組みを強化・推進

衣料品の企画、製造販売等を手がけるアパレル大手の株式会社TSIホールディングス。複数の事業会社を参加に擁し、幾多のブランドを展開している。グループ全体で店舗数は約850店舗、従業員数は約4500人という規模。
「ファッションエンターテインメントの力で社会の共感と社会的価値を生み出す」をパーパスに掲げ、従来のアパレルビジネスの概念を払拭し、人と環境のために真の価値を提案する「ファッションエンターテインメント共創企業」を目指している。VOCにおける取り組みとしては、2015年より複数ブランドでNPS®を導入し、VOC活用を積極的に推進している。

人力に依存したVOC分析では発展性がない。誰もが感覚的に使えて的確に分析できるツールが必要だと考えた

VOC分析に力を入れるに至った背景を教えてください。

加賀谷氏:2015年に経営陣が変わったタイミングで、経営戦略のひとつとして顧客に向き合う取り組み=NPS®を導入する指針を掲げました。それを機に改めて、お客様が書いてくださったFAを読み込んだのですが、まず「こんなにも書いてくれるんだ」ということに驚きました。
そして、この声には大きな価値があると確信しました。
 

− VOCに大きな価値があると確信されたのはどんな考えからですか?

加賀谷氏:事業に関わる人の気持ちを動かすには、会社の上層部から伝えるよりも「お客様がこう言っているのだけど」と問いかけるほうが現場側ではずっと納得感があり、行動に繋がりやすいと考えたのです。

 

− VOC活用を進めるにあたり、テキストマイニングツールを導入したのはなぜですか?

加賀谷氏:NPS®を開始した当初はすべて自前で、独自の解釈で声を類型化し、エクセルを使って分析していました。
ただ、それでは扱える声の量に限界がある。分析のスキルも自身に依存させていては発展性がない。会社にとって何がプラスになるかと考えた時、誰もが感覚的に扱えて、分析ができるツールを導入する必要があると思いました。
そこで、国内外のテキストマイニングツールを調べ、日本語の扱いに優れている国内ツールの中でもシェアNo.1の見える化エンジンを導入することに決めました。

見える化エンジンは、気になるポイントの深掘りだけでなく、その一歩手前の「なぜ」を探すヒントも与えてくれる

− 見える化エンジンで分析を行う際のデータソースについて教えてください。

中島氏:見える化エンジンでは、主軸となっている7つのブランドを対象に、主にNPS®におけるFAをデータソースとして分析しています。

 

実施しているNPS®調査の形態は2パターンあります。

1つは常時ブランドごとに設計・実施しているトランザクション調査です。
アンケートの回収方法は、

  • 購入後に送信するサンクスメールから回答してもらう方法
  • 店舗でフライヤーを渡してQRコードから後日回答してもらう方法
  • 店頭でその場で回答してもらう方法

の3パターンがあります。
例えば、店舗利用があった顧客に対して、挨拶・接客・会計など、顧客体験の流れに沿って評価を聞いています。こうすることで分析の際に、一連の顧客体験の中でそれぞれどのような評価があり、何が推奨度に影響しているのかわかりやすくなります。

もう1つは、複数ブランド共通で実施しているリレーショナル調査です。
1年に一度、一定期間内に購入履歴のある顧客へメールを配信し、回答してもらっています。
設問なども揃えて、ブランドごとの特徴が比較出来るようにしています。

− 見える化エンジンを実際に使ってみて、使用感はいかがでしょうか?

加賀谷氏:分析結果から、気になった点や気付きを、クリック操作などで直感的に深掘りすることができるので使い勝手がとてもよいです。声のボリューム、ポジティブ・ネガティブなどもとてもわかりやすく可視化されます。
当初の目的のひとつでもある「専門的な知識がなくても、誰でも使える」操作性のよさも魅力ではないでしょうか。
 
原氏:見える化エンジンは「何でだろう?」を考えるためのポイントをわかりやすく教えてくれます。何もない状態から「何でだろう?」に辿り着くことは意外と難しいので、考えるためのヒントを与えてくれることはありがたいです。
 

− 分析の際に重宝している機能は何ですか?

村松氏:私は分析の際には最初に、データ全体としてどのような話題があがっているか俯瞰することができる「全体マッピング」の機能を使っています
分析の対象を満足度ごとにわけて、話題のまとまりをいくつか出すと、大まかな傾向をパッと把握できる。そこから、注目すべきワードを深掘りしていく使い方が気に入っています。
 
原氏:個人的には、単純に発言の多寡ではなく、その属性で偏って発言されている内容を可視化することができる「特徴比較」の機能が気に入っています。顧客のWhoとWhatがよくわかるので、顧客の特徴をキャッチしやすいです。
組み合わせて使うとさらに便利だと思うのがセグメント作成の機能です。見える化エンジンでは「ユーザー属性」と呼ばれている機能で、自分たちで自由に分類軸を作成することができます。特に、販売業ならではの分類ができることが非常に便利。
例えば挨拶・お探しのもののヒアリング・提案・試着・会計など、店舗接客の流れで分類することでどの部分が顧客に求められているのか確認できます。
また、以前SV(スーパーバイザー)時代にVOC分析をしていた時は、自分の思い込みや裁量に頼る部分が大きかったのですが、見える化エンジンを使うことで感覚的な部分を検証し、客観的に顧客の声のデータを理解できるようになったことも大きなメリットだと感じています。

NPS®調査ではあえて推奨者を細分化し、顧客体験の「満足」を「感動」に押し上げるための切り口を探る

− まずは各ブランドで取り組まれているトランザクション調査について、分析の際の着眼点、指標などを教えてください。

 村松氏:分析の際に重視している指標のひとつが、推奨度と満足度の相関です。当社では図1で表している通り、NPS®と満足度を掛け合わせた4象限の中でも左上、満足度が低いが、推奨度への相関が高い部分を「優先課題」と捉えています。
ここにプロットされた設問に関する満足度を改善することで推奨度が上がっていく、ひいては収益も上がっていく。そのような仮説を立てたうえで、見える化エンジンを使って同項目で高い満足度をつけている顧客はどのような発言をしているのか?という点を深掘りしていきます。

図1


例えば、「期待を上回る」という発言と「期待を“大きく”上回る」という発言の差は何だろう?という分析。
マッピングなどを見ながら発言を比較して、見えてきたことを自分なりに考察してレポーティングで提示しています(図2)。

図2

 
原氏:「期待を上回る」と「期待を“大きく”上回る」は近いように見えて、実はすごく差があると考えています。店舗における顧客体験が、前者は「満足」なら後者は「感動」なのです。感動すれば人に伝えたくなるし、もう一度買いたくなる。だからこそ「満足」ではなく「感動」に持っていくために何が必要なのか考えることが重要になってきます。
そこで、推奨者の発言に注目して、どのような発言がされているのか、発言している顧客にはどのような特徴があるのか、といったことを深掘りしていくのです(図3)。

図3

 
原氏:私たちの分析では批判者と推奨者の比較だけでなく、推奨者をより詳細に分析していると思います。スコアでいえば「9を10に押し上げる」という目線で分析して、顧客体験のなかで満足を超える「感動」をしていただくためにはどうしたらよいのかを考えるのです。もちろん批判者の発言に注目して、背景を探ることもしています。
 

− ブランドを横断して実施されているリレーショナル調査に関するお取り組みを教えてください。

 中島氏:こちらは、3か月間のNPS®アンケートで6ブランドに集まったお客様の声、約3000件の中から、推奨者の声を抽出したマッピングです。(図4)

図4


A~Fの部分はブランド名で、それぞれのブランドに偏って発言されている言葉や、いくつかのブランドで共通して発言されている言葉を確認できます。
 結果の見方、ここから読み取れること・伝えるべきことを精査したうえで、ブランドにフィードバックをしたところ、「感覚的に分かっていた特徴が言語化された」とブランドSSVから声をもらえましたし、「ブランド別の特徴を表現し提示したことで自分のブランドを外側の目線でとらえられた、気づきを得ることができた」というお声もいただけました。
 
店舗スタッフはこのお客様の求める要素をヒントとして活動を行い、顧客体験向上につながる業務改善サイクルに繋げられたのではと考えています。

グループの収益基盤を支える「店舗」に立って、接客に励むスタッフたちにVOCを還元することが大切

− 分析はどのような頻度で実施し、どのような形で共有していますか?

 原氏:分析結果は3ヶ月に一度、各ブランドとの共有会を設けてフィードバックしています。同じ事業会社の中に複数ブランドがある場合は、ブランド比較をしたデータを提示することもあります。
共有会に参加するのは、ブランドのマネージャー的な立場のスタッフ(担当ブランド・店舗を持つ立場)がメインですが、その後彼ら自身からそれぞれの担当店舗に結果を共有して具体的なアクションに繋がっていく流れができています。

− 声からのアクションは現場で主導されているのでしょうか?

原氏:そうですね。レポートを受けてどのようなアクションを考えつくかは店舗の裁量であり、自主性に任せています。そのアクションを俯瞰して、結果を見ていくことは私たちもしますが、基本的にアクションを促すのはマネージャーの役割です。
 

− VOC分析の結果は、どのようなアクションに繋がっていますか?

村松氏:店頭では共有会でのレポートを受けて、様々なアクションに挑戦しています。
私はもともと店舗スタッフとして分析結果の共有を受ける側でしたが、例えば接客において、お客様の声から「提案力」をあげるためのアクションのひとつとして、お客様にお似合いになりそうなものを自ら提案する、という活動を取り入れました。来店したお客様を観察して、店舗としてのおすすめ商品をお見せするだけでなく、本当にお似合いになりそうだという商品をお持ちするという施策です。
「おすすめ」と「提案」は似て非なるものです。結果、顧客の購入点数が上がり、お客様1人あたりの客単価が上がる=収益が上がるというところにまできちんと繋がりました。

 

− VOCを店舗スタッフのモチベーション向上にも積極的に活用しているそうですね。

加賀谷氏:TSIグループの収益基盤はNPS®開始当時の2015年も現在も、変わらず店舗での売り上げが支えています。
その店舗で先頭に立って、一生懸命にお客様に向き合っている人たちがいる。そんな彼らが「ここで働いていてよかった」と思える環境を作ることが、会社の収益基盤を安定させるために最も大切なことだと経営は受け止めています。
だからこそ、VOC活用のひとつとして「VOCをスタッフにきちんと還元する」ということにも力を注いできました。お客様からの「嬉しかった」「ありがとう」という言葉が、いわば名指しで、自分の名前とともに届いたら、それ以上に嬉しいことはないですよね。VOCはスタッフのモチベーションにも大いに寄与するのです。
 

− コロナ禍が店舗のあり方に大きな影響を与えたこともVOC活用の見つめ直しなどに繋がりましたか?

原氏:コロナ禍の影響でスタッフの離職率が上がった時期がありました。素晴らしいスタッフたちが辞めていき、売り上げも当然ダウン。そんな苦しい現実を前に、こんなにも頑張っているスタッフたちを、もっと楽しい気持ち、コロナ禍でも頑張ろうという気持ちにさせてくれるものって何だろう?とすごく考えました。
そして、それはやはりお客様の声なのだと思いました。
 

− その気づきから、どのような取り組みをしていったのでしょうか?

原氏:コロナ以前もVOCのスタッフへの還元には取り組んでいましたが、コロナ以降の2年間はVOCを通してスタッフに注目し、賞賛するということに尽力し、VOCレポートにも賞賛活動を取り入れてきました。また、店長や副店長以外のスタッフにも、リーダーとしての役割を何か持たせて、お客様の声を扱う取り組みも実施してきました。
こうした取り組みによって、スタッフのモチベーションが上がり、そのモチベーションがお客様に還元されて、ブランドへの還元にも繋がり、またスタッフに還元されていく…そんなサイクルを、VOC活用で構築することができると考えています。

VOC活動は人材開発でもある。お客様の声と重要性を的確に伝えていくことで、人も会社も強くなっていきたい

− 2015年より続けてきたVOC活用の推進。これまでの取り組みを振り返っていかがでしょうか?

加賀谷氏:顧客の声に基づいて様々な施策を打ってきたことで、eNPS℠調査(従業員満足度調査)のスコアは2015年頃にはマイナス40前後だったところから、開始4〜5年でプラスへと転換していきました。
施策については、従業員が顧客の声に耳を傾けて改善してきた一方で、会社が従業員の声に耳を傾けて働く環境を改善するという活動も取り入れ、両輪で取り組んできました。働くモチベーションを支えるためにもVOCは重要だと感じています。一方で、VOCだけに頼るのではなく、そこから何を気づくか、また環境そのものを会社が支えていくことも必要です。
 

現在はどのような視点でVOC活用を捉えていますか?

加賀谷氏:企業の中長期的な事業戦略においても、顧客との関係構築のための取り組みとして「顧客の声や反応は商品開発にも反映する」とあり、VOCは非常に重要になってくると考えています。
VOC活動とは組織開発であり、人材開発。
企業として掲げている事業達成のためには、組織を強くする必要があり、その強い組織を支えらえる人材が必要になる。そういった人を育てるためには、経営層の自己満足のアクションでは支持されません。やはり顧客の声に基づいた、時代の変化に応じたアクションを取り入れていくことが求められます。
「お客様はこのようなことを言っているけれど、どう思うか?」といったコーチングのプロセスを繰り返していくことで、人は育ち、会社が強くなっていくと期待しています。

中期計画:TSI Innovation Program 2025(TIP25) より

 

− 最後に今後のVOC活動の展望をお聞かせください。

原氏:現在複数ブランドでNPS®を導入してはいるものの、まだその数は限定的ですので、今後は導入ブランドを拡大していくことにチャレンジしていきたいです。
より多くのブランドでNPS®を実施し、お客様の声をもとにした目標が設定され、それがブランドの体験価値向上のアクションに繋がっていく。そんなPDCAサイクルが回っていくことが理想です。イノベーションファシリテーターである私たちがブランド側に、お客様の声とその重要性、声から導き出されるブランドの価値を伝える「伝道師」的な存在になっていけるようにこれからも尽力していきたいです。

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