導入事例

概要

「お客様に完全なサービスを」の精神で培ってきた、パナソニック株式会社 エコソリューションズ社(当時)のVOC活動

「お客様に完全なサービスを」の精神で培ってきた、パナソニック株式会社 エコソリューションズ社(当時)のVOC活動

パナソニック株式会社 エコソリューションズ社(当時)
CS部 VOC・グローバルCS企画課
前田 泰成 氏
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1.VOC活動による戦略決定

製品の製造・販売を主たる業務とする企業にとって、自信を持って提供したはずの商品・サービスが、予想に反し市場に評価されないこと程大きな損失はない。

このような損失の発生要因には様々なものがあるが、自社製品に対する顧客のニーズや改善点の把握の不十分さが要因となっていることが少なくない。このような損失の発生リスクを軽減するためには、顧客のニーズや改善点を客観的に把握することが必要になるが、VOC活動はそのための重要な活動の一つとして位置づけられる。

VOC(Voice of the Customer)とは、顧客の要望・苦情・コメント、市場の変化による顧客のニーズなどを分析した上で、企業活動の戦略を立てることをいう。

VOC活動の重要性一般については多くの企業が認識していると思われるが、パナソニック株式会社 エコソリューションズ社(当時)(以下パナソニックES社)は、この分野において長年にわたる実績を有する。

そこで、ここでは、同社が取り組んできたVOC活動を紹介する。

2.コールセンターにおける取り組み

2.コールセンターにおける取り組み

2.1 コールログ分析としての「見える化」

VOC活動として、コールセンターが重要な役割を担っていることは一般的に理解されているところであろう。そこで、まずパナソニックES社において、VOC活動の一環として行っている、コールセンターに寄せられた情報の分析(コールログ分析)について見てみよう。

顧客から同社に寄せられる電話は、 年間約120万件にのぼるという。このような大量の要望・苦情・コメントを効率的に分析するために、件数・内容面からの分類に加え、顧客から寄せられた情報の「見える化」の観点から、タグを用いた管理をしているという。

以下に一部を列記する。

  • 「何々してほしい」「何々したい」「困っています」
  • 顧客からの情報として分類。
  • 「カタログ」「ホームページ」
  • カタログ・ホームページは見ているが分からないということなので改善をするための情報として分類。
  • 「発火」「発煙」「水漏れ」「落下」「故障」
  • 自社製品の品質リスクに関する情報として分類。
  • 「高齢」「お年寄り」「子ども」「女性」
  • 顧客属性を示す情報として分類。
  • 「地震」「ゲリラ豪雨」「台風」
  • 住宅に影響を及ぼす自然現象に関する情報として分類。


また、同社には、コールセンターに集められた情報を、全社員が、期間、商品属性、顧客属性などから容易に分析することができる「簡易分析」機能も準備されている。


2.2 問診機能による効率化

パナソニックES社では、効率化の観点から、企画・開発の担当者が商品ごとに設定することが可能な「問診機能」を導入している。

例えば、高級キッチンについての問い合わせがコールセンターに寄せられたときには、問診機能により、「購入理由は何ですか」「最後まで比較したメーカーはどこですか」といった質問事項がポップアップで相談員に提示され、相談員が顧客から返答を得ることになる。

この機能によって、企画・開発の担当者は有益な意見を得ることが可能となり、効率的な商品開発に結びついているという。

3.インターネット上での情報収集

パナソニックES社では、VOC活動の一環として、SNSの分析も行っている。

市場品質リスクは、従来は顧客からの苦情や現実に確認された問題から判断していたのを、SNSを利用した方法も取り入れている。そして、SNSで得られた情報を、好感・期待から悪口までを、0から4までのステージに区分し「見える化」をしているという。

また、プレスリリースやショウルームでのキャンペーンなどの反響もネガティブなものは改善にポジティブなものは更なるプッシュに活かしているという。

さらに同社では、SNSに限らず、インターネット上の情報を広く収集し、これをMROCの情報や過去に同社が実施したインタビューのデータと比較・分析することで、新しい顧客インサイトを抽出し、新商品の企画開発に応用することも試みているという。

4.社内啓蒙活動

4.社内啓蒙活動

また、どのように優秀なVOCシステムを構築したとしても、運用する従業員の意識や能力が低ければ画餅に帰してしまうだろう。そこで、同社では、VOC活動を実質的なものにするため、多くの社内啓蒙活動も行っている。

以下に、同社の行う啓蒙活動の概要を列挙しよう。

社内アカデミー

商品企画や開発、マーケティングの若手の担当者を集め、最初にシステムの使い方、分析の仕方などのレクチャ。また、相談センターにて実際の声を聞き、テキスト化された文章の意味を生の声で理解してもらう。さらに、様々な業種のメンバーが参加する場であることから「中間報告会」を行い、追加分析と問診活用、最終成果発表を行う。2006年からスタートし、計246名が参加。

月次研修会

VOCの取り組みの必要性、実際の使用方法を、座学にてレクチャ。2006年からスタートし、計662名が参加。

モニタリング研修

お客様からのお問合せを相談員がテキスト化しただけでは分からないお客様の気持ちを理解すための研修。2010年度は全社で計1316名が参加、2014年度の下半期には655名が参加。

啓発情報の配信

注目商品のトピックス、問い合わせの増加傾向にあるもの、発火・発煙・落下・故障という「留意キーワード」に引っ掛かるもの、件数の推移と売上、活用部門別のアクセスランキング、部門別自主取り組み事例、アカデミー分析事例、ワンポイントレッスンなどを、啓蒙情報として定期的に発信。四半期に一回は、役員からのVOC活用の啓発メッセージも掲載。

入力精度向上のためのモニタリング研修

パナソニックES社には約270名の相談員が電話応対にあたるが、全員を対象として、月1回モニタリング研修を実施。応対マナー、入力精度、適切なテンプレートの活用についてのチェックを行う。

現在、同社は「見える化エンジン」による解決が期待される具体的な課題として、応答率の低下の原因となっている「呼量の増大」を指摘しているが、呼量を増加させている原因を調べるため、「見える化エンジン」によって年度ごとのインシデントを分析し、年度の傾向についての仮説を立てているとのこと。

5.VOC活動の成果

このような様々なVOC活動は、どのようにして成果として顕在化しているのであろうか。

この点について、パナソニックES社は、同社が取り扱う商品が耐久消費財であることからこれらの対策によっても成果として現れてこなかったが、2010年をピークとして、問い合わせ件数が5年連続で前年の件数を割れるという成果が認められたとしている。

6.おわりに:現在まで続く創業者の理念
CS部 VOC・グローバルCS企画課 前田 氏

6.おわりに:現在まで続く創業者の理念

昭和42年、パナソニックの創業者である松下幸之助氏は、従業員に対し「(お客様に)完全なサービスができないとしたら、それができるだけの範囲に商売を縮めるということも考えなくてはならない」と述べた。

これは、顧客の声を自社のサービスに完全に反映させることができないのであれば、事業を縮小しなければならない、反対に、事業を拡大しようとするときには顧客の声を十分に反映できるものでなければならない、という経営者としての決意を示したものであろう。

つまり、同社は当時からVOCの重要性を認識していたといえ、その後の発展と現在に至る様々なVOC活動は、同社の伝統に裏打ちされたものといえよう。

今後もパナソニックES社のVOC活動には注目していきたい。

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