導入事例
概要
「科学の理解者」を増やす施策に活かすべく、アンケートの定性分析で国民の声を深堀る
- #社会教育施設
- #企画・開発
- #リサーチ
- #アンケート
事例詳細
課題・背景
- 理系人材、研究者を志す人材が年々減少するなかで、科学者を志す人、科学に理解のある人を増やしていくことが課題。
- この課題に対して施策を考える際、研究所に蓄積しているアンケートの声をもっと活かして取り組みに落とし込めないかと考えた。
取り組み
- WEBモニター調査(瞬速リサーチ)で様々な質問を投げかけ、見える化エンジンで声を分析。人々の科学に対する需要を掘り下げて、アクションへと繋げている。
成果
- コロナ禍で情報サイトを作成する際、調査・分析の結果、元々の構想から方向性を変更。人々の需要に合わせたQ&Aサイトが出来上がった。
- 科学に興味を持ったルーツやきっかけなどを分析。「ルーツ」の機会を増やすために裾野を広げる必要性を感じ、キャラクターなどのビジュアルや景品を検討しイベントを実施したところ参加者が倍増した。
- 調査の結果は、研究所主催の高校教員向け講座の内容見直し等にもつながっている。
1934年に大阪大学の附置研究所として開設し、病気の要因となる微生物の研究等を担ってきた大阪大学微生物病研究所。
旧来、医学部出身の研究者が大半であった状況から、2000年代には方針をシフトし、より幅広いバックグラウンドを持つ優秀な人材の確保に尽力してきた。
研究所のミッションである「優れた研究の遂行」をリレーションシップの面から支える企画広報研究室では、見える化エンジンを活用した調査・分析を通して研究所のミッションに合致するターゲット設定と活動に取り組んでいる。担当の中込氏に話をうかがった。
科学に興味を持つきっかけはどこにある?
需要を掘り下げ、科学への興味関心、次世代の科学技術人材を育てたい。
− テキストマイニングツール導入を検討したきっかけを教えてください。
研究所で企画したイベントの際にこれまで実施してきた参加者アンケートをもっと施策などに活用できないか?と考えたことがきっかけでした。
これまでも、イベント参加のきっかけや年代などの選択式の回答を集計して、例えば開催時間や周知方法の検討などに反映させることはしてきましたが、フリーアンサーは有益な情報が含まれている宝の山と理解しつつも活用に至っていなかったため、テキストマイニングの導入を検討しました。
−どのようなポイントから見える化エンジンに決めましたか?
理由は大きく2つあります。
まず1つ目は、Macで使えること。
論文でよく使用されているテキストマイニングツールもありますが、そのツールが当時Macには十分に対応していなかったのです。
2つ目に、使いやすさの面でもより良いものを求めており、見える化エンジンは高機能でありながらとても使いやすかったことです。
研究者という職業柄、1つのことを掘り下げたくなる傾向にあるのですが、見える化エンジンはまさにその要望を叶えてくれる機能が豊富です。
現在は、見える化エンジン上でモニターアンケートができる「瞬速リサーチ」も併用していますが、こちらで収集・蓄積したデータ以外のデータも取り込んで解析できる点もいいと思いました。
見える化エンジンの導入によって、以前は明確化しづらかった分析のアウトカム指標が設定しやすくなった
− 見える化エンジンを使った分析の主な目的を教えてください。
まず現状として、現在のアカデミアでは、研究者を志す人が減り続けているという状況があります。そんな中で研究所のミッションである「優れた研究の遂行」に合致する広報活動とは、研究に理解ある社会の醸成と次世代科学人材の育成、優秀な研究人材のリクルートと考えました。
このための主要なターゲットは
- non-ScientificCommunity=サイエンスに関わっていない人たち
- ScientificCommunity=サイエンスに関わっている人たち
- その他(資金配分機関など)
と捉えています。
特にターゲット1(サイエンスに関わっていない人たち)への働きかけは、単なる科学・研究の面白さを伝える、というだけではなく10年後、20年後、あるいはそれ以降の科学人材育成という意味でも非常に重要だと捉え、重点的に取り組んでいます。
いろいろな人が科学に興味を持ち、科学を理解する人材が育っていくことで研究しやすい社会が醸成されていく。
そのためには、進路を考えるタイミングの高校生をはじめ、若い方たちに科学の面白さを知ってもらうことはもちろん、その親にあたる方々に科学を好意的に受け取ってもらうことも大切です。
これらを踏まえて、科学に対する国民の皆さんの需要は何だろう?研究所に何を求めているのだろう?と掘り下げていくことが分析の主な目的です。
その結果からターゲットへの働きかけを検討していきます。
− 分析の際に大切にしている視点を教えてください。
やはり「需要を見つけ出す」視点で分析することを心がけています。
というのも、私たち大学や研究機関などアカデミアの行うアウトリーチは企業とは違い、売り上げに繋がる、あるいは数字として成果が可視化しにくい部分もあり、実施したことで満足してしまう危うさもあるからです。
ですから、目指すべき効果・成果(アウトカム指標)を設定し、その中から需要を掘り起こすことは強く意識しています。
そして、その発見した需要に対してどのように答えることができるのか、仮説を立てて実証することで供給をしていくことを目指しています。
見える化エンジンを導入したことでアウトプット指標・アウトカム指標の双方を明確化できるようになり、研究者に協力を仰ぐ際にも、より説得力のある内容を伝えられるようになったと感じています。
分析から見えてきたのは、人々の知りたい「需要」と研究所の「供給」とのズレ。
その気づきをサイト作成やイベント企画に落とし込む。
−見える化エンジンでどのような分析をし、施策や取り組みに繋げているのでしょうか?
見える化エンジンから実施できるインターネット調査「瞬速リサーチ」を活用しています。
その結果を見える化エンジンで分析し、広報施策の検討に役立てる取り組みを実施しています。
目的ごとに、実施した調査の一例はこちらです。
− 調査から得られた結果から、改善施策へ繋がった例について教えて下さい。
例として、コロナ禍での調査・分析について紹介します。
2020年に新型コロナウイルスが流行し始め、研究所として何かアクションを起こさなければと考えた際、今人々はどんな情報を求めているのだろう?と知りたくて「あなたは新型コロナウイルスについてどんなことを知りたいですか?」という調査を実施しました。
以前のアンケートはイベント来場者が対象で、言ってみればある程度科学に興味のある人たちのみにアクセスしている状況だったわけです。
でもコロナ禍が始まり、感染症の研究所としてどのような情報発信をすべきなのか、国民は私たちに何を求めているのかを、広く需要を知りたいという思いがありました。
アンケート開始前からウィルスに関する情報サイトを作ることは決めていて、その構成を当初は「虎の巻」的なものにしようと考えていました。教科書のように章立てして解説していくようなイメージです。
ところが見える化エンジンの「瞬速リサーチ」から回収したアンケート結果を分析していくと、求められているのはどうも虎の巻ではなさそうだという、想定とのギャップが見えてきました。
学問としてのウイルスや免疫に関する情報よりも、例えば予防方法や消毒方法など、もっと生活に密着している、暮らしに役立つことを知りたいというのが需要だったのです。
そこでサイトの構成を検討し直し、Q&A方式で情報をコンパクトにまとめて見せる方向でサイトを作成しました。できあがったのが感染症と免疫のQ&Aサイト「やわらかサイエンス」です。
−調査・分析を重ねていくなかで、どのような視点や気づきが生まれましたか?
「需要と供給のズレがあったこと」は大きな気づきでした。
実際に需要としてあるのは身近な疑問や身の回りで役に立つこと。ところが私たちの研究成果というのは生活とかけ離れたところがあります。
多くの人に科学に興味を持ってもらい、「自分事」として考えてもらうまでにはまだ大きな壁があり、その壁をどうすれば振り払っていけるのか?ということを、調査・分析を進める中で考えるようになりました。
その過程で、アプローチするターゲットの解像度も上がりました。
− ターゲットの解像度が上がった結果、どのような変化があったのでしょうか?
科学と聞くだけで否定的な感情を持つ人も一定数おり、科学を前面に出してしまうと、そもそも考えてもらいづらいのだとわかりました。
そこで、科学に対して直感的な苦手意識をもつ層をターゲットとして、例えばイベントを研究所ではなく商業施設で開催してみたり、イベントそのものも科学感をあまり出さないように心がけてみたりと工夫していきました。
例えば商業施設で開催した「免疫細胞スタンプラリー」のために作ったキャラクター。
ぱっと見た感じでは可愛い生き物のキャラクターですが、実はどれも免疫細胞をモチーフにしています。
また、科学に対して馴染みのない方や、難しい、敷居が高いという印象を持つ人に対して、まずは知ってもらい、裾野を広げる狙いでコンプリート者プレゼントをつけて実施してみたところ、一年前に景品なしで実施した時に比べて参加者は倍になりました。
同じく裾野を広げるという視点から、親しみやすい携帯ゲームを作ってみるなど様々な施策に取り組んでいます。
− その他、分析から気づき・アクションへと繋がった例があれば教えてください。
科学が苦手になったきっかけに関する調査を実施した際、結果を分析していくと「高校の授業がきっかけで苦手になった」と感じている人が多いことが見えてきました。
そこで、研究所で実施している高校教員向けの講座の内容を見直すことにしました。
従来は研究所の研究成果を聞いてもらうことがメインでしたが、分析結果をうけて、教科書の内容と最先端の研究内容をリンクさせ、魅力的な授業作りに役立つよう構成しています。
−調査の切り口は毎回どのように定めていくのですか?
まずは、自分たちで最終的に知りたいことを明確に設定することが重要だと考えています。その後、その結果を検証するために必要な指標を考えます。
質問の設定や分析のまとめに関しては、見える化エンジンのコンサルティングサービスの枠組みも活用し、切り口や聞き方について支援いただいたこともあります。
ミーティングをしながら調査内容を決め、その分析結果を受けてさらに次の調査を検討していくという形で進めています。
−アンケート調査・分析結果が活用された施策には他にどのようなものがありますか?
高校生をターゲットとした調査では話し合う中で、科学に興味を持つに至るまでに「ルーツ」「きっかけ」「後押し」「決め手」があるのでは?と見えてきたので、それに沿って質問を設定して調査を実施しました。
分析の結果「ルーツ」は「親」という回答がとても多かったので、親子ターゲットは先ほど紹介した景品つきイベントのような、裾野を広げる施策に特化する方向へ舵を切ることができました。
−今後、テキストマイニングを使った分析をどう展開させていきたいと考えていますか?
科学にまったく興味のない層に対しては、今まで以上に取り組みを強化させていきたいです。
また、これまでは定期的に同じ内容の調査・分析をしてきましたが、今後は社会の情勢変化と国民の価値観の遷移なども調査してみたいという研究者としての興味もあります。
その中でこれまで掘り起こせていなかった社会意識を見つけ、施策に繋げていければと思います。科学的なあるいは客観的な情報をもとに、どんな状況でも適切な判断をできる人を増やしていきたい。
そんな目標を持って、今後も様々な調査・分析を展開していきたいです。
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